第9章 家光様の帰城ー三日目・夏津ー
最後に夏津は綺麗に全部洗い流してくれた。
少し泣いて目を赤くした私に言う。
「もうこうやって泣かせてやれないんだな……。」
なんでそんなに寂しそうな顔するの。
「私は別に泣きたくないんですけど。」
「こんなことされておまえ、俺のこと忘れられなくなっただろ?」
「え?」
「俺はおまえのこと忘れるから、おまえは俺のこと忘れるな。」
「なんでそんなこと… 」
「さっきの質問の答えだ。
……俺はもう行く。」
そう言って夏津は背を向けた。
何も言えずに背中を見つめていると、出口で振り返り、
「おまえ、ここ、ちゃんと隠しとけよ?」
首筋を人差し指でとんとんと叩く。
えっ?そんなことされたっけ?
慌てて見ようとしても、自分では見えない位置だ。
「冗談だ。じゃあな。」
そう言って笑う夏津の瞳はとても優しく見えて、酷いことをされたはずなのに何故かとても切ない気持ちになった。