第9章 家光様の帰城ー三日目・夏津ー
ー翌朝。
もう明日にはここを出て行く。
身の回りを片付けなくては。
でも身辺整理……と、言われても。
もともと自分のものはほとんどない。
ここへ連れて来られた時に着ていた着物くらいだ。
あの時は展開が急すぎて、あっという間に豪華な着物に着替えさせられちゃったけど、私にしっくりくるのはやっぱりこっちの着物だよね。
家光様として大奥で過ごす間に、いくつか贈り物も頂いたけど……。
これは私にじゃなくて、家光様に宛てたものだし全て置いていこう。
だいたい、ただの町娘がこんなに高価なもの身につけてたらおかしい。
綺麗な簪や櫛、調度品を見ていると、ひとつだけ持って行きたいものがあることに気がついた。
鷹司にもらった蝶の耳飾り。
これも、つけて出かけることなんてできないだろうけど、思い出に持って行きたい。
明日、春日局様に聞いてみよう。
そう決めて、大事に布でつつんだ。
うーん、暇だな。
あとは掃除でもしようかな。
明日からはまた家光様が使うことになる葵の間を、私は隅々まで拭き掃除した。
何かしていないと余計なことを考え始めてしまいそうで、掃除に没頭しているうちにあっと言う間に時が過ぎた。
「紗代様、湯浴みの時間でございます。」