第8章 家光様の帰城ー二日目・九条ー
「ありがとー……。
でも余計忘れられなくなっちゃったかも。」
九条は私を抱きしめるだけで、それ以上触ってこようとはしなかった。
いつか大事な人に触ってもらえるまで大切にするんだよー、って言ってくれた。
「家光様に生まれたかったな」
と呟くと、九条は
「俺は自由に生きられる紗代に生まれたかったよ」
と言った。
「人生うまくいかないね。」
2人でそう言って泣き笑いみたいになった。
九条の部屋を出て、とぼとぼと自分の部屋に向かって歩く。
火影も九条も、私のことをそんな風に思ってくれてたなんて気づかなかった。
私が鈍いのか、みんなが気持ちを隠すのが上手だからか。
どっちなのかはわかんないけど、こんな私でも想ってくれる人がいるってことはここにきて学んだことの一つになった。
……鷹司は私のことどう思ってたのかなぁ。
きっと、それを知る機会は訪れない。
今更知ったところでどうにもならないんだけど。
もう一度だけでも会えたら、お礼を言いたかったな。