第16章 月夜の待ち合わせー政宗ー
政宗の御殿に帰りつくと、女中さんたちがびっくりして出迎えてくれた。
全身ずぶ濡れの政宗と、足元が泥だらけの私は交互にお風呂に入ることになった。
先に行って来いという政宗の言葉に甘えて、用意してもらった替えの着物を持ってお風呂に向かおうとすると、パシっと手首を掴まれた。
「とりあえず一口もらっとく。」
軽く唇が重なった。
「もう……。」
早く落ち着いていちゃいちゃしたくなってくる。
「行ってくるね。」
と、踵を返そうとしたけど政宗が手を離さない。
「政宗?」
「おい、それ、誰のだ?」
指をさされたのは、胸元。
あ、秀吉さんに借りた手ぬぐい。
急いでたし、道中何度か使ったから袷のところに挟んでいたんだった。
「これは秀吉さんが貸してくれて……。」
「ふーん。」
政宗はそれ以上何も言わずに手を離した。
何も言わない時ほど何か考えてるんだよなぁ、嫌な予感。
私が終わらないと政宗も入れないし、手早く身体流してこよう。
雨の中待っててくれたなんてちょっと嬉しかったな。
現代だったら、簡単に連絡つくからメールで先に帰ってるねーで終わっちゃうんだろうし。
この時代は約束したら会えるまで待つしかないんだ。
言われてみれば、政宗を待たせたことって今までなかったかも。
汗もかいたからお湯が気持ちいい。
もう少しだけ温まったら出よう。
そう思った時、背後の扉が開いた音がした。
「入るぞ。」