第10章 耐えられない想いは重く。
初詣の長い列に並び、ようやく僕たちの番が回ってきた。
チャリンチャリン。
賽銭箱に5円玉が吸い込まれていく。
そこで僕が神様に頼むこと、それは。
『どうか、この想いが消えてなくなりますように』
海堂を見ると跳ねる心が、落ち着きますように。
他の人を見ている海堂を見ると、どうしようもなくイライラしていた気持ちが、なくなりますように。
どうか、神様。
パンパン!と隣で拍手を打つ音に、ハッとする。
僕は慌てて同じく拍手を打って一礼し、次の人にその場所を譲った。
「不二! こっちこっち~」
「おみくじ?」
「そう! 俺はねー末吉だったー」
うぅん。普段はあんまりしないけど…たまにはいいかな。
ジャッと中を混ぜるようにしてから、逆さまにして一本、くじを引いた。
「えーっと……」
大吉。だってさ。
恋、望めば叶う。だってさ。
無責任だな。
思わず、くじを握りしめた。
くしゃくしゃになってしまったくじ。
僕はため息をついて、木に結んだ。
ふと横に目をやると、沢山の絵馬が引っかかっている。
その中の一つから、目が離せなくなった。
『海堂くんが私を見てくれますように』
はは。
どうして、こんなのを見つけちゃうんだろう。
一枚一枚読んでるわけじゃないのに。
いっぱいある絵馬のたった一つ、この小さな文字。
"海堂"という漢字にさえ、僕の心は吸い寄せられる。
…いいな。
僕が、女だったら……。
こんなに、苦しい思いはしなくていいのかな。
海堂のことを想っていても、許されるのに。
この絵馬をどこかにやってしまいたい。
なかったことにしてしまいたい。
ねぇ、神様。
このお願いは、叶えないで。
絵馬に手を伸ばす。
釘にひっかかった紐を取ろうとした、そのとき。
「不二先輩? もう皆あっち行ったっスよ」
「えっ」
吃驚して、僕は慌てて絵馬を裏向けた。
海堂が不思議そうに僕を見ている。
どきり。
それだけのことで、この胸は高鳴るんだ。
「あっち?」
「ッス」
海堂が指を差す方を見れば、社務所の前ではしゃぐ英二たちの姿があった。