第9章 変わる人。
あの人が、最近一段と綺麗になったのは鈍感な俺でもわかる。
何か、悩んでいるだろうことも。
けれど、いつも通りのあの人だから、なんて言って声をかければいいのかわからない。
そう、あの人はずっと変わりなく、俺にちょっかいをかけてくる。
いつも通り、どこが違うとは言えない。
けれど、確かにそこに、異なる雰囲気があるから、変な気分になる。
ふしゅ――と息を吐くと、乾先輩がこちらにやってきた。
「海堂」
「…なんスか」
「不二のことだけど」
「俺は何も知らないっスよ」
「…わかってるよ。ただ…」
「?」
この人が、中途半端なところで言いよどむのは珍しいことだ。
まるで、言ってもいいのか悪いのか、考えているようだった。
「いや…やっぱりやめておくよ」
乾先輩はそれきり、不二先輩のことについて何も言わなかった。
その方がいいと、乾先輩が判断したのなら、俺には何も言うことはない。
こういうことは、乾先輩の判断に任せる方がいい。
俺は、人付き合いは苦手だ。
空気を読めないし、大抵間が悪かったりする。
だったら、最初から何もしない方がいい。
結局、不二先輩の話題はうやむやに終わった。
別に、俺には関係のないことだからどうでもいいことだった。
次の日の昼休み。俺は購買から教室へ帰る最中、偶然不二先輩を見かけた。
学校の中庭で、誰かと話しているようだった。
「不二くん。あの…1年のときから…ずっと、ずっと好きでした。私と、付き合ってください!」
……変なところに出くわしちまった…。
なんで俺はこう間が悪いんだ…。
俺は息を潜めて、木の後ろに隠れた。
「ごめんね…。僕、好きな人いるんだ」
「そう…。ごめんね、呼び出したりして…」
涙ぐんだような、女子の声が聞こえる。
「ううん。…ありがとう」
そして、女子は走り去って行った。
……人の告白だとか、振られるところだとか。
見てて、気の良いものじゃない。
俺は溜息をついて、ようやく歩きだした。
「海堂」
「あ…」
まだいたのか…。てっきり、不二先輩もどこかへ行ったと思っていたのに。