第1章 いつもある風景が少し変わるとき
少しの不安と、期待で入り混じった、おかしな気分で通る門。
海堂は早めに学校に着いてしまっていた。
期待がそうさせたのか、不安がそうさせたのか。
教室もわからないので、海堂は学園内を散歩することにした。
桜の大木が何本も植わっている。
透き通るような青空に、薄紅色の花弁が映えていた。
そんな折、スパーンスパーンという、小気味良い音が聞こえてくる。
「…?」
海堂は不思議に思って、その音を頼りに歩いていく。
校舎の角を曲がると、そこにはテニスコートが広がっていた。
青学のテニス部はそれなりに実績があると聞く。
入学式の日も、部活があるのだろうか。
そう思ってあたりを見回してみるが、部員らしき人どころか、誰一人いない。
音はまだ聞こえている。
海堂はさらに進み始めた。
すると、そこには壁を相手にボールを打ち続ける一人の少年の姿があった。
薄い髪の色と、白い肌と、華奢な体。
彼は一心不乱に、ボールを打つ。
「……」
自主練習のようであった。
その姿に、海堂は見入っていた。
そこでようやく、ボールが壁に当たる位置に規則性があることに気づく。
3点に、順番にボールを打っているのである。
素人目ではあったが、それがかなり難しいであろうことはわかる。
しかし、彼はそれが何でもないことのように打ち続ける。
一定のリズムを保っていた。
海堂はそっと、その場を離れた。
じっと見ていられるのは、そのことを知らないとはいえ嫌であろう。
入学式の間も、家に帰ってからも、彼の姿が思い浮かんだ。
綺麗な人であったことが、とても印象に残っている。
そして、大変な努力家だということも。