第1章 いつもある風景が少し変わるとき
桜舞い散る4月。
青学テニス部に、今年も新入部員が入ってきた。
「骨のありそうなヤツが二人…かな」
乾の言葉に、不二や大石は笑みを深くする。
「今年は、どこまでいけるかな」
「……」
手塚は無言で目を伏せた。
新入部員…つまり一年は、コート整備から始まる。
いわば雑用係だが、ボール拾いの合間に先輩たちの姿を見て憧れを持ち、より高い目標を持つ…というのが一年なのである。
そんな一年の中に二人が、特に上級生の目を引いた。
先ほど乾が言っていた、骨のありそうなヤツ、である。
一心不乱に、転がっているボールを拾う二人。
ツンツン頭の表情のよく変わる子と、バンダナをつけた不機嫌そうな子。
我先に、と他の部員が拾おうとしていたボールまで横取りしながら、二人はボール拾いをする。
まるで競っているかのようだ。
すでにライバル心むき出しの二人に、上級生はクスリと笑みを零した。
そんな一年たちのボール拾いが終わり、彼らはコートの外に並ばせられた。
何なのだろうとキョロキョロしている一年たちに、一年の指導を任された二年の大石がコート内を見るように言う。
「これから、テニスのルールを説明していくから、ちゃんと聞いて覚えること。昨日も一応説明したけど、実際にこれは見てみないといけないからね」
優しい風貌の大石がそう言いながら、さらっとルール説明をおさらいする。
「三年の金本先輩と、二年の不二が試合を見せてくれるから」
それを聞いて、数人の一年が残念そうな顔をする。
「どうかしたのか?」
「あの…手塚先輩じゃないんですか?」
一人が尋ねてきて、大石は苦笑する。
確かに、現在のテニス部で最も強いのは手塚だ。
彼の名声に惹かれてテニス部に入ってきた者も少なくないのだろう。
「手塚は、別メニューなんだよ。不二だって、凄いんだ。天才だからね」
その言葉に、海堂は興味を覚えた。
そういえば、手塚のことを天才だと呼ぶ人がいないような気がする。
青学で天才と言われるのはいつでも『不二』という人であった。
コートに立った金本と不二の姿が、目に飛び込んできた。
(不二先輩…か)
海堂は始めて不二を見たときのことを回想する。
あれは、入学式の日だった。