第3章 走るその姿
終礼が終わってすぐに、僕は英二を置いて部活へすっ飛んで行った。
待ってよ~!と叫ぶ英二の声は悪いけど無視。
1年生の終礼って、終わるの早いんだよね…。
早くしないと、海堂は練習を始めちゃうから。
部室に辿り着くと、すでに海堂は着替え終わっていた。
「…ちわっス…」
僕の姿を見つけて、海堂はペコリと頭を下げる。
「やぁ、海堂」
ちょっといいかな?と言って、部室を出ようとする海堂を引き止める。
きょとんとする海堂に、僕は今朝のことを聞いてみることにした。
僕の家の近くまでランニングに来てることを。
「ちょっと、オーバーワーク気味なんじゃないかな、って」
「…んなことないっスよ」
ムッとした表情。やっぱり…素直には聞いてくれない、かな。
「部長や手塚、乾も心配してたよ。トレーニングのしすぎは、逆に体を壊すことになってしまう」
正論だよね。それが分かってるから、海堂は黙ってしまう。
「だからさ、海堂に合ったメニューを、乾が組んでくれたんだ」
「え…?」
これ、と僕は乾から預かったメニュー表を渡した。
僕が見たところによると、今彼がやっているのよりも少ないと思う。
納得できないよね、多分。
「……」
じっとメニューを見つめる海堂。
「気に入らない?」
「……」
僕の言葉に、そっと視線を逸らす仕草。やっぱりね。
どうして、と思ってるんだろうな…。
今の君の頭の中では、会議が繰り広げられてるに違いない。
素直な君が、このままメニューを受け取った方がいいと思っていて、意地っ張りな君は嫌だといってる。
負けたような気がして、嫌なんだと思うけど。
それか…どうして乾じゃなくて、僕が持ってきたのか…が気になってるのかな。
「…海堂?」
「あ…えと…」
迷ってるみたいだから、僕は強行突破というか…脅し?をかけることにした。
「一応、部長命令なんだよね」
海堂は複雑な表情をしてから、僕の手からメニューを受け取った。
メニューを睨みつけるように見てから、海堂はそれをたたんでポケットに押し込んだ。
「何かあれば、乾に言ってね。でも…乾はデータとかで忙しいみたいだし、中々捕まらなかったら僕でもいいし」
「…っス…」
「それじゃ、また後でね」
「っス…」