第3章 走るその姿
乾のクラスに行くと、乾はすでに昼ごはんを食べた後らしく、クラスメイトと談笑していた。
入り口付近の生徒に声をかけて、乾を呼んでもらった。
「どうしたんだ、不二?」
クラスメイトの輪の中から抜けてきた乾にごめんね、と謝ると、乾は気にしていないと首を振った。
「ちょっと、海堂のことで」
「海堂? あのバンダナの?」
「そう」
こくりと僕が頷くと、乾は意外そうな顔をする。
「珍しいな、不二が他人に自分から関わっていくのは」
「あはは…そうかな」
「それで。一体どうしたんだ?」
うん…と僕は今日の朝見た光景のことを話した。
このままじゃ、練習のしすぎで余計にダメになってしまうんじゃないかってことも。
「不二の家までか…それだと、俺たちが思っていた以上だな…」
「え?」
「いや…手塚や大石も、その話をしていたんだ。しかし、思った以上のオーバーワークだ。もう少し様子をみてから…と思っていたんだが」
「そうなの? 何だ…。良かった。それじゃ、彼専用のメニューを作ってるんだね?」
乾の言葉に、僕はほっとした。
「ああ…。一応、な。しかし、アイツが受け取ってくれるかどうかだ…」
「そうだね。それじゃ、僕がメニュー、渡そうか?」
僕がそう言うと、乾はじっと僕を見て、そうだな…と小さく呟く。
「お前がそう言うなら」
それにしても、本当に珍しいな…と乾は笑う。
「何が?」
「それほど仲良くない奴にそこまで気をかけることが、今まであったか?」
「…ないかもしれないね」
でも、僕は気まぐれだから。
僕の言葉に、乾は薄く笑った。
「メニューは部活前に渡してくれ」
その言葉とともに、僕は海堂の練習メニューを受け取った。
「じゃ、また後でね」
ひらひらと手を振って、僕は乾のクラスを後にする。
自分の教室に向かいながら、海堂のことを思う。
どんな顔をするだろうか?
人とのかかわりを自分から少なくしているのに、こうやって僕たちが気にかけていることを知ったら。