第3章 走るその姿
いつも通りの時間に、僕は目を覚ました。
心地よい目覚めに自然と笑みがこぼれる。
カーテンを開けると差し込んでくる光が、僕のサボテンたちを照らし出す。
朝の光は柔らかくて、僕の心をぽかぽかとあたためてくれる。
窓を開けると、風がふわりと部屋に飛び込んできた。
「あれ…」
ふと家の前の道を見てみると、そこには見慣れた姿があった。
いつもの格好で、いつものペースで、いつものように、彼は走っていた。
こんなところまで、走りに来てるんだ。
僕は少し驚いた。
海堂の家は、学校からすれば僕の家とは逆方向。
かなり遠いはずなんだけど…。
ランニングの距離を、無茶して増やしてるんじゃないだろうか。
そんな気がして、僕は少し心配になる。
「乾に相談してみようか…」
余計なお世話かもしれないけれど。
僕はそう思って、朝の支度を始めた。
昼休み、ご飯を食べ終わった僕は乾の教室まで行くことにした。
「にゃー? 不二? どこ行くのっ」
まだお弁当が少し残っているらしい英二が、フォークを咥えたまま聞いてくる。
「うん、ちょっとね」
「ふーん…いってら~」
手を振る英二を残して、僕は教室を出た。
さて…いつも通りなら、教室にいると思うんだけど…。
でも、僕が頼んだところで、海堂に乾がメニューを作ってくれるのだろうか。
そして、もし作ってくれたとしても、海堂がそれに従ってくれるのだろうか。
わからない。
けれど、彼が無理をして体を壊してしまったら。
たった数週間しか同じクラブで活動をしたことがないけど、やっぱり哀しいものだと思うし。
仲間を失うのは、本当に…怖いことだから。