第10章 悪が勝ってもいいじゃん【一松】
【一松side】
あーあ、逃げちゃった。
俺、別に何もしてないのに、ね。
よりによって、彼女のファーストキスの相手がクソ松とか……。
ファーストキスを奪ったくらいで我が物顔になってないといいんだけど。
だって、ファーストキスした相手と恋に落ちる、なんて少女マンガとか夢物語だけでしょ?
ひたむきに頑張ったヒーローが、ヒロインと結ばれるわけでもない。
現実はそんなに甘くない。
それを俺は知ってる。
だから、彼女のファーストキスを奪えなかったくらいで別にあいつに何かしようとは思わない。
俺は、彼女が頼んだパフェを持ち、呆然と立ち尽くす店員に代を払って店をあとにした。