第10章 悪が勝ってもいいじゃん【一松】
【一松side】
『あ、この子!一松さんに似てますよ!』
不意に彼女が振り向いた。
『ほら、似てません?』
一松「俺と?」
『はい!』
どこか嬉しそうにはしゃぐ姿が無邪気で意外だった。
一松「………どこが?」
俺の問に彼女は迷う素振りひとつ見せずに答えた。
『この子、こっちから近づくと逃げるんですけど、わたしが他の子と遊んでると喉を鳴らして、擦り寄ってくるんです。天の邪鬼っていうか、寂しがり屋』
一松「俺が寂しがり屋ってこと?」
『寂しがり屋っていうか……、ほんとは人懐っこいところ、です』
一松「ふーん………そう」
彼女の目に俺はそんな風に映っていたのか。
彼女は俺のことをしっかり見てくれていたんだ。
だって、他のやつらは俺のこと、静かだ、とか、何考えてるか分からない、ってよく言う。
でも、彼女は俺の外だけじゃなくて、ちゃんと中も見てくれた。
ちゃんと、俺という人間を見抜いてくれた。
勘違いしそうになる。
俺は彼女に心を許してもいいのだろうか。