第5章 平行する想い
「どうした?何かあったか?」
騒ぎを聞きつけた鳩宮さんが食堂から遅れて出てきた。
「すみません、急に声を掛けられてビックリしてしまいました。何でもありません。お騒がせしました。」
そう言って頭を下げる莉緒ちゃん。四宮さんを睨みつける岩ちゃん。ただ、その場に立ち尽くす四宮さん。
鳩宮さんは怪我はないかと莉緒ちゃんに優しく声を掛ける。それに莉緒ちゃんは不器用な笑顔を浮かべる。岩ちゃんは鳩宮さんに頭を下げ、莉緒ちゃんの肩を抱いて、体育館の方へと戻って行った。それを四宮さんは何も言わずただ、黙って見つめていた。四宮さんのその絶望に溢れたその瞳から目が離せなかった。
そんな四宮さんに鳩宮さんが声を掛け、いつもの表情に戻った四宮さん。四宮さんは、俺の方へと歩いてきた。
「及川やっぱりいいや。もう、このままでいい。」
それだけ言って四宮さんも体育館へと戻って行った。
もういいっていうのは、莉緒ちゃんと話す機会を作らなくていいってことなんだろう。
「及川君、すまないね。アイツ自分勝手で、迷惑をかけたろう。」
「え?」
「四宮がマネージャーになる時に話を聞いているからある程度事情は知っているんだ。
あ、勿論練習試合を組むまで、青葉城西に彼女がいる事は知らなかったし、今回たまたま再会を果たしてしまった訳なんだが。彼女に謝罪をしたいから、青葉城西の子達に何を言われても黙って見ていて欲しいと言われてね、だから皆あえて干渉させなかったんだが、そのせいで君には苦労をかけたみたいだ。すまなかった。」
鳩宮さんは深く頭を下げた。
「いや、俺は何もしてないですし、」
「四宮、随分話ずらい奴だっただろう?根は優しい奴なんだがプライドの塊みたいな奴だからな。」
「鳩宮さんは四宮さんの事、」
「いや、年下は対象外かな。なんか不器用過ぎてほっとけなくて、そういう質なんだよ。」
そう言って鳩宮さんは笑った。