第5章 平行する想い
体育館を出たはいいが、食堂の場所を知らなかった。戻って大学生達に場所を聞くべきかと悩んでいると、両手いっぱい荷物を抱えた金田一の姿。金田一に声を掛けると、岩ちゃん達はまだ食堂にいるらしく、金田一に食堂の場所を聞いて食堂へと向かった。食堂へと走っていると、目的地であろう食堂の方から悲鳴が聞こえた。その声は恐らく莉緒ちゃんのもので、何事かと足を早めた。
「莉緒ちゃん!?」
階段で蹲る莉緒ちゃんの後ろには四宮さんの姿。そして、同じく莉緒ちゃんの悲鳴を聞きつけたであろう岩ちゃんが走ってきた。その場にしゃがみこむ莉緒ちゃんの元に急いで駆け寄る岩ちゃん。莉緒ちゃんは震えていた。
「テメーまた莉緒に…!」
鬼のような剣幕で四宮さんに迫る岩ちゃん。
「違う!私何もしてない!」
そう言った四宮さん。彼女の瞳は何だか悲しげで、いつもの高圧的な態度とは違っていた。そんな四宮さんに殴り掛かるんじゃないかというような勢いの岩ちゃん。それは流石にまずいと思い、二人の間に割って入ろうとしたが、俺よりも先に二人の間に割って入ったのは莉緒ちゃんだった。
「一君、違うの。急に声をかけられてビックリしちゃっただけだから。本当になんにもないから。」
四宮さんのあの様子からして、突き落としたりとかではないとは思った。でも、過去に莉緒ちゃんのことを階段から突き落としたことがあると四宮さんはそう俺に話した。
多分背後から声を掛けた時に、四宮さんは肩にでも手を触れたのだろう。それで莉緒ちゃんは昔の事が重なって、突き落とされるのではないかと思い、悲鳴を上げたのではないか、そう思った。
過去の傷は簡単に消えたりはしない。四宮さんが謝った所で何も変わらないんじゃないか。そもそも、何かが変わることを莉緒ちゃんは望んでいるのだろうか?