第4章 追い掛けてくる過去(ヒロイン視点)
「莉緒ちゃんの笑顔見たら、俺やる気でるのになー!」
部活中に、ヘラヘラして、練習中に必要以上に私に構う及川の態度に腹がたった。
「アンタにとってのバレーは遊びの延長なのかしら?」
彼にはバレーの才能がある、実力だってあるし、チームを引っ張っていく力もある。それは理解していたが、どうしても彼の態度が気に入らなくて、思ってもない事を口にしてしまった。
「岩ちゃんがいたからマネージャーやりはじめたくせに。やましい気持ちでマネージャーやってんじゃないの?」
その言葉につい、カッとなってしまい、及川の胸ぐらを掴み、自分の方へ引き寄せた。
「何も知らないくせに。」
バレーの才能にも、環境にも、仲間にも恵まれたアンタに、私の何が分かる。
これ以上及川なんかに構ってる暇はない。そう思い、手を離し、ボトルをまとめ体育館へと戻った。
その日の夜、久しぶりに夢を見た。暗くて寒い道を必死に走る夢。一点の光を目指し、必死に走る。でも、泥濘に嵌ったみたいに足がどんどん地面に沈んでいって、地面から黒い手が伸びてくる。助けを求めても、誰も来てくれなくて、地面に引き摺りこまれていく。地面に完全に埋まってしまいそうになった時、誰かが私の手を握った。それを握り返すと、『アンタなんかいなければ良かったのに。』そう言われ、手を振りほどかれた。
目を覚ますと、私は泣いていた。どうしようもない不安と、恐怖に押し潰されそうになる。あれから一年以上も経つのに、私はまだ過去に、美鈴さんに怯えていた。こっちに来てから一君がいつも一緒にいてくれるお陰で、こういう事は以前と比べ減ってきたけど、それがなくなる事はなかった。