第4章 追い掛けてくる過去(ヒロイン視点)
二ヶ月が経ち、美鈴さんの指は完治した。また一緒に美鈴さんとバレーが出来るのが嬉しくてたまらなかった。
久しぶりに美鈴さんから上げられたトスを打つ事が、こんなにも嬉しいなんて思わなかった。美鈴さんは久しぶりにトスを上げたせいか、皆と上手くタイミングが合わなかったりもしたけど、それでも私は一緒にバレーを出来ることが嬉しかった。久しぶりの練習だし、タイミングが合わないのも最初だけで、徐々に感覚も戻ってくるだろうと思っていた。
「春高代表決定戦、セッターは橋口。四宮はウイングスパイカーとして出場してもらう。」
監督の言葉に耳を疑った。
「どうして私がセッターなんですか!?私達のチームのセッターは美鈴さんしかいません!」
「本気で言ってるのか?お前が一番分かっているだろう?」
監督にそう言われ、返す言葉が見つからなかった。美鈴さんは、骨折してからトスを以前みたいに上げられなくなっていた。指先の感覚が違う、そう美鈴さん自身も言っていた。そしてそれを、一番長く一緒に練習していた私は誰よりも感じていた。
「橋口の得点力も惜しいが、橋口以上にセッターが務まる奴がいない。」
「でも…!」
「莉緒!大丈夫、私も自分のトスじゃダメだって分かってるから。」
美鈴さんは私の肩を叩いて笑った。
「私が代わりにバンバン点取るから、安心して。」
「…はい。」
ずっとセッターとしてバレーをして、一番悔しいのは美鈴さんだって分かっていた筈なのに、私はそれを忘れていた。