第3章 彼女の過去
バレー部は三年を筆頭に何かしら競う事が好きで、勝負となれば皆釣られる。それに景品までつけたんだから、特に三年レギュラー陣はやる気満々で俺のスタートの掛け声と共に勢いよく泳いでいった。
その間、俺は莉緒ちゃんの手を引いて、泳ぎの特訓。足がつくところならっていうのを条件に、莉緒ちゃんから浮き輪を取り上げた。浮き輪が無くて不安なのか、俺の手をしっかりと握る莉緒ちゃん。初めは渋っていたけど、いざ練習を始めると、負けず嫌いの性格のせいか、真剣に練習に取り組む。
莉緒ちゃんを部員達から引き離したのはいいが、いざ引き離してみると、これからどうしたものかと。練習だってあるし、ずっと莉緒ちゃんに付きっ切りなんて出来ないし、第一に莉緒ちゃんがそれを嫌がる。俺が牽制したって、部員達はデレデレしながら莉緒ちゃんにくっついていくし。
今までだったら、岩ちゃんに好意を寄せてる子に、カッコいいところを見せ、優しくして、岩ちゃんより俺の方がいいでしょ?って思わせる作戦で、皆それにイチコロだったんだけど、莉緒ちゃんにはそれが一切効かない。
今まで俺が付き合った子は元々皆岩ちゃんのファン。岩ちゃんに負けたくないっていう男のプライドと、岩ちゃんを取られたくないっていう勝手な独占欲。岩ちゃんを好きだと言ってた子達が、俺の事を好きだと言ってくれるのは、正直かなり気分が良かった。まあ、付き合ったからと言って、俺は今まで通り部活がある訳だから、付き合った子の為に時間を作ってあげる訳なんてなく(だって、別に俺はその子の事が好きなわけじゃないし)、そんな感じだからまあ、いつも割とアッサリ振られちゃうんだけどね。でも、岩ちゃんの事を好きな子って、割と内気な子が多いから、俺と別れた後にまた岩ちゃんに、なんてそんな事出来る訳もなく、結果、俺の思い通りって訳なんだけど。
「ねえ、及川、及川ってば!」
「え、何?」
考え事をしていたせいで、莉緒ちゃんに呼ばれてる事に気付かなかった。
「休憩したいんだけど。」
「あ、そうだね。なんか飲もうか。」
海を出て砂浜に上がると、リタイアした渡っちと矢巾を呼んで、莉緒ちゃんと一緒にいてくれるよう頼んだ。