第3章 彼女の過去
「くらえ!」
「ぶ!」
ロードワークを終え、全員が帰ってくると、マッキーがホースを取り出し、矢巾に水をかけた。全身ずぶ濡れになる矢巾とそれを見て笑う部員達。マッキーはホースの向きをかえ、部員達に水を撒き散らす。皆ゲラゲラ笑いながら水かけを楽しんでいた。
「ほら、そろそろよしなさいよ。次は中で3対3だからね、準備ー。」
「死ね及川!」
「ぶっ!」
マッキーのホースに狙われ、頭からつま先まで全身びしょ濡れになった。やられっぱなしで練習に戻るのは癪で、矢巾からバケツを奪いマッキーにかけた。水掛けが更にヒートアップし、各自バケツやホースを持って、全員水浸し。
「ねえ、及川。ビブスが1組足りないんだけど、どこになおした?」
「あ!莉緒ちゃん危ない!」
体育館から出てきた莉緒ちゃんの方にホースの水が。危ないと思った時には既に莉緒ちゃんも水浸し。さっきまで笑いながら水掛けを楽しんでた部員全員が静まり返る。そして無言の莉緒ちゃん。
「莉緒ちゃん?」
恐る恐る声をかける。顔をあげた莉緒ちゃんは笑顔で、それが逆にまた怖かった。
「アンタ達、部活中に何やってんの?」
莉緒ちゃんの笑顔に皆凍りついた。笑顔なのに、目が笑ってない。
「橋口さん、あれ、透けてない?」
後ろから二年の声が聞こえ、莉緒ちゃんを見ると、水に濡れたせいで、服がうっすら透けて、下着のラインが見えていた。俺は慌てて着ていた服を脱ぎ、莉緒ちゃんに着せた。
「ちょっと何すんのよ!」
「いいから着てて!」
「アンタの服もずぶ濡れで気持ち悪いんだけど!」
「いいから!」
「お前らさっきからうるせーぞ!…及川何裸になってんだ?」
体育館から出てくるなり、岩ちゃんは汚いものでもみるような目で俺を見た。
「つーかなんでお前ら濡れてんの?」
「及川に水かけらた。」
「いや、莉緒ちゃんに水掛けたのは俺じゃないからね!」
「部活中に主将が遊んでどうすんだ!」
「いで!」
「お前らもさっさと着替えて練習戻んぞ!」
岩ちゃんに怒られ、部員達はぞろぞろ体育館に戻ってく。