第21章 【番外編】恋に落ちる(国見英)
「いただきます。」
律儀に手を合わせそう言った橋口さんにつられ、俺も小さな声でいただきますと言った。フォークを塩キャラメルロールに刺し、それを掬って口に運ぶ。甘いが塩っけがあり、しつこ過ぎないそれは、今まで食べた塩キャラメルを使用したお菓子の中では格別に美味かった。橋口さんも余程それが美味しかったのか、フォークが進む。そんな俺達の席に、誰かが駆け寄ってきた。そしてそいつはテーブルに置かれたコップを手に取り、それを橋口さんにかけた。その女の顔を見て、俺は更に驚いた。そこにいたのは中学を卒業した時に別れた元カノの梨花だった。
「ちょっとアンタ、私の英と何仲良くしてんのよ!?」
大声を上げそう怒鳴る梨花。突然飲み物をかけられ驚いたのか、橋口さんはその場に固まっていた。俺は慌ててポケットからハンカチを出し橋口さんに渡した。
「橋口さん、すみません。」
「なんで英が謝るのよ!私の事ほったらかして何してたのよ!」
梨花は温厚で物腰の柔らかい人だった。一緒にいると楽だった。そんな梨花に告白され、別に断る理由もなかったし、付き合うことになったけど、付き合ってからの梨花は怒りっぽく、ヒステリック。そんな彼女に疲れ別れたのに。
「…国見、この子誰?」
「元カノです。」
「元カノ!?違うでしょ!?私達付き合ってるじゃない!」
別れてからも彼女は俺に付きまとっていた。でも、最近はそれもなくなり、諦めたかと思っていたのに。そして何故か彼女の中では俺達はまだ付き合ってる事になってるらしい。
「英が最近冷たかったのはこの女が英を誑かしたせいね!?私の英を誑かすなんていい度胸じゃない!」
そう言って橋口さんに掴みかかろうとする梨花の腕を掴んだが、それを振りほどこうと梨花は手を振り回した。