第16章 恋心の行方(岩泉視点)
「一君っ!」
名前を呼ばれ、振り返ると、泣きそうな顔をした莉緒。及川の姿はない。
莉緒は昔から自分の気持ちよりも人の気持ちを優先してしまう優しい奴だった。そんな莉緒が及川と付き合ってる事を俺に言えなかった事に対して罪悪感を感じてしまったんだろうと思った。
「今まで悪かったな。」
莉緒が幸せならそれでいい。及川は軽い奴だけど、悪い奴じゃない。きっと、俺よりも莉緒を大事にしてくれる。
「じゃあな。」
莉緒と別れ歩いた。頬を伝った雫は突然降り出した雨に溶け込んだ。
本当はずっと傍にいて、ほかの誰でもなく、俺が守ってやりたかった。
「…好きだ、莉緒…。」
その声は、雨によって打ち消された。