第13章 恋、気付く時(岩泉視点)
その言葉は真っ直ぐで、俺に気を遣って言ってる言葉じゃないって分かった。涙を浮かべる莉緒の頬に触れた。
「一君…?」
不安そうに俺を見つめる莉緒の瞳が揺らいだ。
「一!莉緒ちゃーん!ケーキ食べるー?」
母ちゃんの声が一階から聞こえてきた。その声に莉緒は食べますと返事をし俺から離れた。…俺は今何しようとした…?母ちゃんが呼ばなければ、俺は多分、莉緒に…。
「一君、ケーキ…食べに行こっか?」
「…そうだな。」
俺には立石がいる。なのに、俺は何してんだ。そういういい加減な事は俺自身一番嫌ってる行動だ。莉緒はただの友達。…いや、妹みたいな存在で、特別な存在ではあるが、それ以上でも何でもねえ。そう自分に言い聞かせた。
それからその日の事を忘れようと勉強に没頭した。立石を大事にしようと、大事にしたいと思った。そうすべきだと。でも、立石の事を考えると、莉緒の顔がチラついた。どうしてこんなにも莉緒の事が頭から離れないのか。どうして俺はあの日莉緒を抱きしめたのか。どうして俺は莉緒にキスをしようとしたのか。考えてもその答えは出なかったが、一つだけ分かる事がある。俺はどうしようもないクソ野郎だって事。彼女がいるにも関わらず莉緒に手を出そうとした。散々及川の事をクソだなんだと言っていたがクソ野郎は俺の方だ。