第12章 好きでいてもいいですか?(ヒロイン視点)
あの後、美鈴さんと別れ家に帰った。そして、日曜日、部活の終わった賢太郎と共にサークルに行った。特に賢太郎と何か話す訳でもなかったけど、やはり賢太郎と一緒にいると落ち着いた。
そして月曜日。朝練がないのは不思議な気分だった。でも、これからは朝練がないのが普通。教室に入ると、一君はもう登校していて、おはようと言えば、挨拶を返してくれた。普通な事なのに、それが嬉しく感じるのはやっぱり一君への恋心に気付いたからかな。
昼休み、教室に一君の彼女がやってきて、可愛いお弁当包みを一君に渡していた。それを冷やかすクラスメイト達。その光景を見て羨ましく感じた。一君にお弁当を作って、それを一君に食べてもらえたら幸せだろうな。何もしない、そう決めたのに、一君に対する気持ちはどんどん膨らんでいった。その気持ちに気付かないフリをして友達と笑いながらお弁当を食べる。私、ちゃんと笑えてるかな?
「莉緒ちゃん!」
背後からの突然の衝撃に箸で掴んでいた卵焼きが落ちた。
「ちょっと何すんのよ及川!」
「あ、ごめんね。」
謝罪の言葉を口にするが、全然悪ぶってる素振りを見せない及川。そして、机に落ちた卵焼きを手で拾い、それを自分の口に運んだ。
「なんか用?」
「そんな邪険にしないでよ。」
「用がないなら自分の教室に戻ってよ。一君に用なら早くあっち行って。」
「部活も引退になったしさ、俺ら受験生なわけじゃん?そこで、これからは放課後皆で勉強でもどうかなって思って。」
「皆って?」
「マッキーとまっつんと俺。」
「及川推薦きてるでしょ?勉強する必要ないじゃん。」
「莉緒ちゃんに勉強教える人必要でしょ?」
腹立たしい事に、コイツはスポーツだけじゃなく勉強も出来る。正直、これからセンター試験に向けての勉強を私一人でやるのはかなり大変だと思っていたから、勉強を教えてもらえるならそれは有難いことだけど、及川に教わらないといけないのは癪に障る。でも、期末テストで赤点を三教科も叩き出した私は、誰かの手を借りないと、センター試験も散々たる結果になるだろう。花巻と松川も一緒なら心強いし、お願いした方がいいのだろうか。なんて悩んでいたけど、
「放課後図書室に集合だからね。」
私の返事を聞く前に及川はそう言って、一君の所へ行ってしまった。