第2章 彼女の素顔
保健室までの道のり、莉緒ちゃんは俺の手を引きながら、怒っていた。
「なんで咄嗟に手を出すのよ!アンタの手は皆にトスを上げる手をでしょ!もっとセッターとしての自覚を持ちなさい!」
「いや、そうだけど、あんな強いボール流石に顔面で取るのは痛いし。」
「よそ見してるアンタが悪いんでしょ!手怪我するより、顔怪我した方がマシよ!」
「俺が顔怪我しちゃうと、女の子達が悲しむでしょ?」
その言葉に、莉緒ちゃんはドン引きしていた。
「てか、莉緒ちゃん、いいの?俺は嬉しいからいいんだけどさ。」
そう言って莉緒ちゃんが強く握っている俺の手を指さすと、莉緒ちゃんは慌てて手を離した。
「莉緒ちゃんが走って俺の所に来てくれるなんて予想外だったなー。」
「…だって、アンタは大事なセッターだし。
悔しいけど、一君、アンタからのトスでスパイク打つ時が一番活き活きしててカッコイイんだもん…。」
俺の為、じゃなくあくまでチームの為、岩ちゃんの為。それでも、莉緒ちゃんに気にかけてもらえたことが嬉しかった。
「莉緒ちゃん、バレー好き?」
莉緒ちゃんは頷いた。
「岩ちゃんの事は?」
「なんでそんな事アンタに言わないといけないの?」
「じゃあ、俺の事は?」
「嫌い。」
悲しいくらい即答。嫌いにしても、もっとオブラートに包んでくれるなりしてくれればいいのに。
「でも、アンタのバレーは好き。」
そう言って優しく微笑んでくれた莉緒ちゃんに、俺は言ってはいけないことを言ってしまった。
「なんでうちでバレーしないの?」
その言葉に莉緒ちゃんの顔から笑顔が消えた。