第12章 好きでいてもいいですか?(ヒロイン視点)
仙台市体育館に十時五十分に美鈴さんと待ち合わせ。少し早く目的地に到着し、そのまま外で美鈴さんが来るのを待った。また、こうして美鈴さんと出掛けられる日が来るなんて思っていなかった。試合に負けて、あんなに悔しくて悲しくて仕方なかった筈なのに、美鈴さんとこうして会えることが嬉しくて、笑みが溢れた。待ってる時間も苦痛じゃない。そう思ったのに、
「ねえ、君さっきからずっとここにいるよね?」
「バレー見に来たの?」
迂闊にもナンパに遭ってしまった。キャップを深くかぶり直し、彼等の問い掛けを無視した。
「ねえ、無視してないでさ、こっち向いてよ。」
私より遥かに背の高い二人。無視していたのが気に食わなかったのか、私の被っていた帽子を取り上げた。目を合わせないように、顔を見られないように、そう思ってたのに。
「うっそ!超可愛いじゃん!」
「やっべ!超好み!」
私の顔を見るなり、目の色を変えて口説き始める彼ら。非常に迷惑かつ、不愉快極まりない。
「帽子返して。」
「うっわ、声も超可愛いじゃん!何?芸能人かなんか?」
「返して。」
帽子に手を伸ばすと、私の帽子を掴んだ手は、彼の頭より高い位置へあげられ、手を伸ばしても届かない。
「俺らと遊んでくれたら帽子返してあげるよ。」
「誰がアンタ達なんかと。」
「まあ、そう言わずにさ、」
私の手を掴もうと伸びてきた手。掴まれたら私の力じゃ振りほどくことは出来ない。そう思った時、背後から伸びてきた手が、私の手を掴もうとした彼の手を掴んだ。
「俺の彼女になんか用?」
「げ、青城の及川…!」
「何でもねーよ!」
取られていた帽子を私に渡すと彼らは慌てて逃げて行った。
「もう、莉緒ちゃん。一人でこんな人混みに来たら危ないよ。今日は狂犬ちゃんか岩ちゃんは一緒じゃないの?」
「なんで及川がここにいんの?」
「なんでって、決勝見に来たから。」
及川は絶対に見に来ないと思ってたのに。
「どっちかが勝ってもどっちかの負けっ面は拝めるからね!」
「ホント性格悪いわね。」