第10章 恋、気付く時(ヒロイン視点)
水族館を出た後、近くのお洒落なカフェでお昼を取った。お昼を済ませ、ブラブラと街を歩いた。及川と一緒にいると、モヤモヤした気持ちが吹き飛んでいった。バレーに打ち込んでも消えなかったのに、それが嘘みたいに消えていった。
「次どこ行く?」
なんて話をしていたら、少し先に一君と手を繋ぐ彼女の姿が見えた。楽しそうに笑い合う二人に、消えかかっていた筈のそのモヤモヤがどんどん膨らんでいって、足が止まった。
「莉緒ちゃん?」
私の異変に気付いて、及川も足を止めた。私の視線の先に一君がいる事に及川も気付いた。
一君の隣で笑うの私じゃない。
一君の手を握るのは私じゃない。
仲睦まじい二人の姿を見てるのが苦しくて、悲しくて、湧き上がってくるこの感情にブレーキがきかなかった。二人を見てるのが苦しくて、私は走った。及川に名前を呼ばれたけど、その場から離れたい一心で私は走った。人混みを掻き分け、走って走って。息が苦しい。いつもならもっと走れるのに、苦しくて、苦しくて。がむしゃらに走ったせいか、つい注意散漫になり、人にぶつかってしまった。
「…すみません。」
すぐさま、ぶつかった相手に頭を下げると、手を掴まれた。
「うわ!すげー可愛い!」
「何?泣いてるけど彼氏と喧嘩でもしたの?可愛い顔が台無しだよ。」
「俺らが慰めてあげよっか?」
泣いてると指摘され、初めて自分が泣いてる事に気付いた。なんで、私泣いてるの?
「…大丈夫です。すみませんでした。」
彼らの手を振りほどこうとするけど、力が強くて振り解けない。
「こんな可愛い子泣かして、俺らが慰めてあげるから。大丈夫だよ、怖がらなくても悪いようにはしないから。」
「こんな可愛い子と会えるなんて俺ら超ラッキー。」
握られる手の力が強くなり、離してくれる気配なんてない。周りの人達はそれに気付いてるようだけど、面倒事に自ら首を突っ込んでくる程馬鹿じゃない。誰も助けてくれない。
「莉緒に触んな!」
力強く誰かに引っ張られ、その人の胸の中に。
「一君…!」
私を抱き寄せたのは、一君だった。なんで、一君が?彼女は?
一君の姿を見ると舌打ちをして彼等は去っていった。