第10章 恋、気付く時(ヒロイン視点)
「どこ行くの?」
「兄ちゃんから水族館のチケットもらったから水族館に。」
「花巻とかと行ってよ。」
「180越えた男二人で水族館って気持ち悪いと思わない?」
確かに気持ち悪い。だからと言って、折角の休日を及川と過ごすのは腑に落ちない。そう思っていたのに、久しぶりに訪れた水族館は意外にも楽しくて、つい及川のペースに乗ってしまった。
「見てみて、オイカワだって。」
水槽の中をプカプカと気持ちよさそうに泳ぐ淡水魚を指さした。及川と同じ名前なんて可哀想に。でも、キミの方が及川の百倍可愛いよ。でも、及川と同じ名前の魚がいるなんて、なんか面白い。そう思ったら自然と笑みがこぼれた。
「やっと笑った。」
「え?」
「莉緒ちゃん最近元気なかったからさ。」
まさか、私を元気づけるために…?
悔しいけど、コイツがモテるの分かる気がするな。及川は基本的にヘラヘラしてて、誰にでも愛想ふりまいて、軽い奴だけど、周りをよく見てるし、敏感で、わかりにくいけど本当はすごく優しい。美鈴さんの件だってそう。及川がいなかったら私は美鈴さんとまた話す事もなかっただろうし、心の底から笑える日なんてこなかったかもしれない。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
及川と友達になれて良かった。なんて、口にはしないけど、ちゃんとそう思ってるよ。