第9章 彼女と最後の青城祭
台本を渡されてから莉緒ちゃんは俺の存在を無視し真剣に台本を読み出した。俺もパラパラと台本を見るけど、三回程読んだところで、台詞は覚えられた。それを見た莉緒ちゃんに暴言を吐かれたのは言うまでもない。
台本を渡されてから一時間が経ち、演劇部の部室へ。移動中も台本を見ながら莉緒ちゃんは小さな声で何度も台詞を口ずさんだ。莉緒ちゃんはなんでも卒なくこなす。そんなイメージなのに、実際は運動は出来るけど、カナヅチで、勉強も苦手。特に暗記系がダメならしい。漢字を覚えるのが一番苦手と言っていたし、古典については意味がわからないとも言っていた。そんな所も可愛いよな。なんて思いながら、演劇部の部室の扉を開けた。
「お、主役の登場!」
演劇部の部員達に迎えられ、早速通しに入る。莉緒ちゃんは必死に覚えた台詞をつなぎ、なんとか、といった様子で皆と合わせる。そのぎこちない莉緒ちゃんもなんだか新鮮だった。思わずそのぎこちない莉緒ちゃんに笑いが零れると莉緒ちゃんに小突かれた。
「毎年思うけど、及川君本当台詞覚えるの早いわね。もうバレー部やめてうち来る?」
「俺はバレー一筋だから。」
「イケメンでスポーツ万能、成績優秀。及川君見てると完璧人間って存在するんだな、って本当思うわ。」
「性格に問題ありだけどね。」
「橋口さん、それは違いないわ。」
「ちょっとそれどういう意味!?」
なんてやり取りをしながら、通しも終わり、また舞台が始まる三十分前に集合ということで一度解散になった。
部室を出る頃にはどこのクラスも片付けに入ってた。岩ちゃんから連絡がこなかったところを見ると、今日も腕相撲は無敗だったんだろう。