第9章 彼女と最後の青城祭
「明日も来てね、待ってるよ。」
女の子の肩にまわした手を離し、ひらひらと手を振れば、女の子は顔を真っ赤にして頭を下げてテントを出て行った。
「ちゃんと稼いだか及川?」
「あ、岩ちゃん。もうダメ、表情筋死んだ。」
「残りは俺がやるから、花巻と松川も行っていいぞ。ほら、及川。」
岩ちゃんから渡されたのは、購買部に売っているお気に入りの牛乳パン。
「岩ちゃんありがとう!大好き!」
「くっつこうとすんな!」
岩ちゃんに拳骨をもらったけど、岩ちゃんの優しさが嬉しくて、痛い筈の拳骨は全然痛く感じなかった。
「で、明日はどうする?及川と莉緒ちゃんは昼ミスターコンとミスコンだろ。その間は岩泉に腕相撲頑張ってもらうとして、及川はクラスの方もあんだろ?」
「午前中はこっち出て、ミスターコン終わったらクラスの方行くから、岩ちゃん後はお願いできる?」
「ああ。」
なんて話してるうちに、また凄い列。
「ただいま。」
顔を真っ赤にした金田一と手をつないだ莉緒ちゃんが戻ってくると、その列から歓声があがり、莉緒ちゃんはその歓声に顔を顰めた。金田一は莉緒ちゃんの手を離し、宣伝のプラカードを置き、最後尾と書かれたプラカードを持って列の後ろに走って行った。
「あらら、金田一耳まで真っ赤にしちゃって。」
「金田一可愛いよね。ずっと一時間あの調子でさ。腕組もうとしたら、腕振り払われて、私結構傷ついたんだけど。手繋いだらカチカチになっちゃってさ。」
「じゃあ莉緒ちゃん、今度は俺らとまわる?」
「ううん、一君と一緒にいる。」
「俺の事は気にしなくていいぞ。行ってこい。」
そう言ってこっちには目も向けず、腕相撲で次々と勝利をおさめていく岩ちゃん。それに、莉緒ちゃんは何か言いたげだったが、少し悲しそうな顔で笑って、いってきますと言った。