第9章 彼女と最後の青城祭
「及川、鍵ありがとう。」
そう言って鍵を返しに来たのは岩ちゃんの根性論Tシャツを着た莉緒ちゃんだった。岩ちゃん、俺達の中では一番小さいけど、こうやって女の子が岩ちゃんの服着たら、岩ちゃんもちゃんと大きいんだな…じゃなくて!
「なんで!?」
「今からペンキ使うから。私着替え持ってきてなかったから汚れたらいけないって、一君が貸してくれた。」
「そんなの及川さんに借りにくればいいのに!」
「クラス違うのになんでわざわざ及川に借りにこなきないけないのよ。」
「ちゃんとズボンはいてる?」
「はいてるわよ!」
軽く頭を叩かれた。最近莉緒ちゃんが岩ちゃんに影響されてか、暴力的になりつつある気がする。叩かれた全然痛くもない頭をさすりながら、鍵を受け取った。
「ムカつくけど絵になるよなー。」
「ホント顔だけはいいからな。」
「はい、そこ!聞こえてるからねー!」
クラスメイトの男子達からの視線を総集めにする莉緒ちゃんと、羨ましがられる俺。
「てかさ、今年は橋口さんいるし、及川ヤバいんじゃないの?」
「莉緒ちゃんなんて敵じゃないよ。」
確かに人の目を惹く莉緒ちゃん。莉緒ちゃん見たさに、お客さんは来るだろうけど、莉緒ちゃんはそういうのに寄って来る人を酷く嫌ってる。チャラチャラしてたり、軽い人が嫌いらしいし。俺みたいな神対応は莉緒ちゃんは出来ない。
「ヤバいってなんの話?」
「あー、橋口さん転入生だから知らないのか。
青城祭は売上一位だったクラスに景品として焼肉食べ放題が出るわけよ。そんで、コイツ、顔と外面だけはいいからさ、一、二年の時及川のいるクラスは及川効果で売上一位で、今年も売上一位とって三連覇するって意気込んでる訳。」
「その、さっきから顔だけとか外面とか、流石に及川さん傷ついちゃうよ。」
ふーん、と言って、興味のなさそうな返事をした莉緒ちゃんと目が合った。すると莉緒ちゃんはニヤリと、笑った。初めて見る莉緒ちゃんの悪戯っぽい笑みに、なんだか嫌な予感がした。