第8章 特別な存在(岩泉視点)
最初の頃は及川の事が嫌いだったらしいが、徐々に二人は仲良くなっていった。莉緒の隣でヘラヘラ笑う及川に腹が立つことも屡々。
莉緒はこっちに来てから、前よりもよく笑うようになった。それでも、莉緒の中から不安や恐怖は消えること無く、それはいつも莉緒についてまわっていた。莉緒が泣く度に、俺は莉緒の元に走った。落ち着くまで、手を握った。抱き締めた。傍にいても、守れない。それが悔しくてたまらなかった。
そして、高校生活最後の夏休みも終わりに差し掛かる頃。練習試合を組んだ大学に、アイツがいた。久しぶりに再会する四宮は相変わらずムカつく奴で、莉緒は四宮に怯えていた。それを四宮は面白がってるようにみえた。
四宮に再会した日の莉緒は酷く情緒不安定で、部活の帰り、そのまま家に連れて帰った。家に帰っても、おばさんの事気にして無理に笑ってしんどいだろうし。それに、夜一人になった時泣くのは目に見えて分かってる。
その日の夜、案の定、莉緒は泣いた。莉緒が少しでも安心出来ればと思い、泣いてる莉緒を抱きしめた。何時間か泣いた頃には泣きつかれて俺の胸で寝息をたてて寝る莉緒。ベッドに運ぼうとするも、莉緒にしっかり服を掴まれて、引き離すとまた泣き出す気がして、初めて一緒のベッドで寝た。こんなのをバレー部の連中、特に及川と花巻が見れば大騒ぎしそうだな、なんて思いながら俺も眠りについた。
朝起きると、目の前に莉緒の顔があった。泣き腫らしたせいで、目元は赤くなっていた。莉緒の頭を撫でると、莉緒が擦り寄ってきた。何があっても、今度こそ莉緒を守る。こんな小さな体で何でも背負い込む莉緒の荷物を少しでも負担してやりたい。そう思うと、自然と莉緒の額に唇をおとした。その自分の行動に驚き、思わずベッドから落ちた。その音に莉緒は目を擦りながら、おはようと言って起きた。莉緒にバレてないか、ドキドキしたが、莉緒はいつも通り。多分、バレてない。