第8章 特別な存在(岩泉視点)
あの日から二日経った日の月曜日。月曜日は部活が休みの為、学校が終わってからそのまま岩手に向かった。どうしても、アイツの口から、話が聞きたくて。駅に到着し、そのまま莉緒の学校へ向かった。
アイツが出てきたのは、七時を過ぎた頃。俺の姿を見るなり、ソイツは不機嫌そうな表情。
莉緒の話に出てくるソイツは、優しくて、面倒見が良くて、バレーが上手くて、尊敬出来る人。バレーの話ばかりする莉緒とのやり取りの中で初めて出てきた俺の知らない人物。莉緒が誰かに懐くのは珍しくて、今までなかったから、莉緒が信頼出来る誰かを傍に作れた事に安心していたのに、その信頼をコイツは裏切った。
「あの日あのまま凍死してればよかったのよ!」
その言葉にカッとなった俺は、ソイツに手を上げそうになった。それをちょっとの理性が止め、壁を殴るだけにとどまれた。
コイツと俺が話すことで何かが変わるなんて事はなかった。でも、後悔してると、悔やんでると、言ってくれれば、まだ許す事が出来たのかもしれない。
それから暫くして、莉緒は福岡へ引っ越した。福岡でも莉緒はバレー部に入ったらしく、バレーをやめなかった事に、少しホッとした。九州と東北、距離はだいぶ離れてしまったが、以前よりも連絡は頻繁になったし、電話もした。夏休みとか長い休みの時は家族揃ってこっちに遊びに来た。元気そうな莉緒の姿を見ると安心出来た。いつも傍に俺がいれてやれたら、そう思ったけど、俺はまだ子供で、そんな事出来るわけもないし、口にする事は出来なかった。