第6章 許されない過去(四宮視点)
それから暫くして莉緒は転校した。
同じクラスの子に行き先を聞いたが、県外に行くとしか知らされていないらしい。
そして季節は変わり、春がきた。
去年の春高予選準優勝ということもあり、例年より入部希望者が少し多かった。バレー経験者が多く入ってきたが、莉緒のようなスパイカーは入ってこなかった。悔しいが、莉緒のバレーの技術はずば抜けていて、その穴を埋めるのは容易ではなかった。
入部者の中には莉緒に憧れ入部してきた子達も少なくはなかった。その為、莉緒が転校したと知るとガッカリした様子だった。
インターハイに向け、部活の後も遅くまで練習をし、朝も皆より早く来て練習をした。高校生活最後の大会、悔いのないよう、万全の体制で挑みたくて、三年生には居残り練習を強要した。
「てかさ、最近美鈴練習練習ってダルくない?」
「それ、私も思った。」
「なんかさ、莉緒が転校してから無茶苦茶じゃない?」
「当たる相手がいなくなったからでしょ。」
「てかさ、イジメもさ、度をこえてたよねー。正直引いたんだけど。」
「わかる、わかる!やり過ぎだったよね。」
「てか、莉緒のトスの方がやりやすかったし、なんか美鈴って無理して莉緒に張り合ってるような感じで痛々しかったよね。」
部室でそう話す同級生の声が聞こえた。信じていたのに、そんな風に思われてたなんて。その言葉に腹が立ち、私は部室の扉を勢いよく開けた。
「言いたい事があるなら直接言えば?」
私がそう言うと皆黙った。
「自分の実力がないのを、私のトスのせいにしないでくれる?練習足りてない自分の力不足のせいでしょ?グチグチ言う暇あったら練習すれば?」
「何、その態度。」
「少しバレーが上手いからって、調子に乗りすぎじゃない?」
今まで私の味方だと言っていたチームメイトから初めて向けられた敵意。いや、それに気付かなかっただけで、本当はもっと前から向けられていたのかもしれない。
その日、チームメイトと大喧嘩になった。翌日からも、それは練習に響き、その溝が埋まる事はなく、インターハイは初戦敗退となり、引退した。