第6章 許されない過去(四宮視点)
外は、雪のせいでいつも以上に寒かった。雪で滑らないよう、足元に気をつけながら学校へと急いだ。警備のおじさんに忘れ物をしたと言って中に入れてもらえばいい。そして、莉緒はまだ学校に残って自主練をしていた。そういう事にすれば、何も怪しまれない。莉緒に口裏を合わせるよう言えばいいだけ。
学校に近付くと、正門の方で怒鳴り声が聞こえた。正門の方を見ると、警備のおじさんと見慣れない制服を着た男子高校生。話に聞き耳を立てると、中に入れろ、入れないで揉めてるみたいだった。面倒事には極力関わりたくない。けど、この時間だと警備のおじさんに鍵を開けてもらわないと中には入れない。面倒とは思いながらも、私は警備のおじさんの所へと足を進めた。
「こんばんは。」
「あ、美鈴ちゃん、どうしたんだい、こんな時間に。」
「部室に忘れ物しちゃったみたいで、取りに来たんです。鍵開けてもらえますか?」
「お前、バレー部のやつだろ!?」
「…そうだけど。」
「莉緒がまだ帰ってきてねーんだ!」
そう言った彼が、よく莉緒の話に出てくる〝はじめくん〟だと、すぐに分かった。どうして隣の県に住む彼が岩手にいるのか。まさか莉緒、両親より先にはじめくんに助けを求めた?
だとしたら、莉緒が倉庫に閉じ込められてる事を彼は知っている。でも、部活をする時は普通携帯は部室に置いてるし、連絡の取りようがない。だから彼がいるのもきっとたまたまで、なら、まだ誤魔化しはきく。
「…それなら私が中を見てくるから。ここは部外者の立ち入りは禁止されてるから。」
それにはじめくんは分かったと言った。
そして警備のおじさんが鍵を開けてくれ、中に入ろうとした時、はじめくんは私が手に持っていた鍵を奪い、そのまま敷地内へ入っていった。
「ちょっと!」
慌てて彼を追いかけるが、足の速いはじめくんに追いつけない。警備のおじさんも追いかけるが遅い。
はじめくんは多分ここに来るのは初めてな筈なのに、まるで女子バレー部が使用する体育館がどこにあるのか知っているかのように、体育館へ一直線に走っていった。