第6章 許されない過去(四宮視点)
春高代表決定戦、順調に勝ち進み決勝まで辿りついた。セットカウントは2-2、向こうのマッチポイントだが、ここを凌げばデュース。まだこっちにだってチャンスはある。
向こうのサーブをリベロが拾い莉緒からのトスでスパイクを打つ。ブロックを抜けるが、向こうのリベロに拾われ、Aクイック。そしてまたボールを拾い、ラリーが続く。もう、足が重くて、気合いだけで走り続けている。相手チームの強烈なスパイクに、こっちのレシーブが乱れ、ボールはコートの外へ。
もうダメだ、そう思ったのに、莉緒がボールを追いかけ走った。
そんな莉緒の背中を見て、押し殺していた、莉緒への嫉妬心、劣等感、それが少しずつ溢れてくるような感じがした。普通なら届かない、いや、そもそもあんなに乱れたボールを拾いに行こうなんてしない。ましてや、そのボールを拾ってトスなんて上げられる筈がない。そう思った。
でも莉緒は違う。あの子は、私達とは違う。
莉緒はボールに追いついた。コートの外からの超ロングセットアップ。それに合わせて私は助走する。あんな乱れたレシーブに追いついて、コートの外から正確で速いトス。そして、私が一番得意とする高さ。莉緒からのトスは完璧だった。
莉緒はセッターとしてずっとバレーをしていた私を遥かに越えてしまっていた。
このトスを打ってしまえば、私はもうセッターとしてはやっていけない気がした。スパイクを決めてしまえば、私は莉緒にセッターとして劣っていますと認めてしまうような気がした。
そう思うと足が動かなくなった。
そして、ボールは地面に落ちた。
31-29
セットカウント3-2
私達は負けた。