第7章 小さく灯る1ルクス
「何とか間に合った・・・」
本当に城に帰ってきたばかりなんだろう
クライブさんが全体的にボロボロだ
「クライブさん!・・・えぇと、お疲れ様です!」
話したいことが沢山あるのに私の口から出た第一声がそれだった。
我ながらバカみたいだ。
「アリーチェすまない、こんな事になってしまって」
私がどうしてこうなっているのか、
どこまで知っているかは判らないけど
随分責任を感じてる様子だった
元はと言えば私が脱走なんて図ったからなのに・・・
ふと、牢の冷たい鉄部分を掴んでいた私の手がクライブさんに包まれる。
自然と両手同士を組みあう形になり、私は不覚にもどきどきしてしまった
囚われのお姫様と、助けに来た騎士みたい。
本当は脱走犯と、こっそり会いに来たルール違反者なんだけどね。
「感動のご対面の所本当悪いんだけど、俺も命掛かってるからさっさと切り上げてくれないか?」
そうだった。看守がこんな事したらマジで駄目だよね
手と手が離れる直前、クライブさんが最後にぎゅっと手を握ってくれた。
そしてその際に、小さく呟いた言葉ははっきり私の耳に届いた
「アリーチェ、俺を信じて流れに身をゆだねてくれ」
あ、「必ず守る」的なヤツじゃないのか・・・
そうしてクライブさんは看守と二言三言言葉を交わすと、
こちらを振り返りもせずに行ってしまった
「本当にちょっとの間だけだったけど、俺もヒヤヒヤしたよ。この代償としてあんたに頼みがあるんだけど、聞いてくれるかい?」
「な、なに?」
もしこれが年齢制限アリの官能小説及びアダルトなビデオなら
この先の展開はお約束だろうなぁ
内心冷や汗をかきながら次の言葉を待っていると、
看守が目を泳がせながら言いにくそうにもじもじしている
お前がそれやっても可愛くないよ!?
「で、お願いって?」
「その・・・あんたの髪の毛を一房、俺にくれないだろうか」
・・・・・髪?
こうして私がこの国にいたことを証明する唯一の物理的な証拠は
地下の暗い部屋の中の引き出しに大事に大事に保管されることになった。
たった一人を除いて、誰にも知られないままに。