第1章 ヘタレ王子 〜月島蛍〜
だからといって、急に女らしくされても困るんだけどね。
『んふふ〜♪ごめんごめん』
口だけで謝りながら、携帯ゲームに没頭しはじめる彼女に半ば呆れつつ、ベッドのそばに座る。
『蛍くんも入ればいいのに』
「は?入るわけないデショ。僕はリビングで寝るから」
パラパラと雑誌を読みながら答えると、嫌そうな返事がされる。
『蛍くんも一緒じゃないと嫌〜』
「馬鹿な事言わないでくれる」
本当、馬鹿なんじゃないの。
ちゃんと自分が女の子だってこと、自覚してる?
してないよね、心は馬鹿だから。
『ね〜蛍くん、お願い』
一緒に寝ようよ。
そう言いながら、僕の首に腕を回して、抱きついてくる。
…ほらもう、馬鹿だ。
心はいとも簡単に僕の決意を砕いてくれる。
…だけど。
結局僕は、この関係が崩れるのが怖くて、何もできやしない。ヘタレ。
「…わかったよ」
しぶしぶ了承して、心の隣に寝転ぶ。
『ふふ〜♪蛍くんいい匂い』
僕の胸に頭を寄せて、嬉しそうに笑う君。
無防備な姿。
……馬鹿。
僕じゃなかったら、食べられちゃうんだから、気をつけてね。
「気持ち悪いこと言わないで、さっさと寝れば」
くっついてくる心を無理やり引き剥がして、電気を消す。
心に背を向けたにも関わらず、心は僕の背中にぴたりとくっついてくる。
「ちょっと」
『お願い、このまま…』
「…はぁ」
心の底から安心したような声をあげる君に、僕は悪態をつく。
しばらくそうしていると、後ろから規則正しい寝息が聞こえてきた。
こっそり振り返って、心の寝顔を見つめる。
長いまつげが伏せられて、薄く開いた唇から吐息がこぼれる。
「……本当、馬鹿」
僕は少しだけ、心の髪を撫でた。