第5章 Sugar honey* ♥︎ 〜月島蛍〜
学校に着いても、しばらく結木の姿はなかった。
始業時間ギリギリになった頃に登校してきた結木はキャンディーを舐めてなかった。
席に着いた結木から、はちみつの匂いがしないのは凄く違和感だった。
そのまま結木と会話をすることもなく、放課後になり、僕は部活へ向かう。
部活が終わった後、空もすっかり紺色に染まった時間。
体育館から校門へ差し掛かった時、人影が見えた。
ふと、山口に目配せをすると、了解してくれたのか他の部員を連れて先に帰ってくれた。
「…何してるの」
そこには、小さくうずくまった結木がいた。
ぼんやりと僕を見つめ返してきた結木は、少し戸惑ったように1度だけ目を逸らしてから、立ち上がり、僕に向き直ると深呼吸をした。
『昨日の、返事…考えてたの』
放っておくとそのまま、校門で話すことになりそうだから、ひとまず僕は歩きながら話すように促した。
結木は、素直に僕の半歩後ろを歩きながら、ゆっくりと話し始める。
『…教室でもね、ふと探しちゃうの、月島くんのこと…。授業中も、後ろで月島くんが勉強してるって思うと、ドキドキして勉強どころじゃなくて…』
あの黒猫も、もともと好きなわけじゃなくて、月島くんに似てるから好きになったんだよ。
そう、言ってから、結木は僕の袖を緩く引っ張って、僕を引き留めた。
振り返ると、今にも泣きそうな表情を浮かべた結木と目が合った。
『私…月島くんが、好きみたい』
涙を浮かべた瞳が真っ直ぐに僕を見つめている。
その目に、僕と星空がうつり込んでいて、すごく綺麗だった。
「僕も、すきだよ」
あんなに、はちみつの匂いがしていたのに、君との初めてのキスは、はちみつの味なんてひとつもしなかった。