第5章 Sugar honey* ♥︎ 〜月島蛍〜
朝、君に会うのが気恥ずかしくて、朝練がある日よりも随分と早く家を出た。
山口には用事があるから先に行くって言ってある。
自分自身の甘い気持ちに気づいてしまってからというもの、すぐ前の席の結木の後ろ姿が酷く綺麗に見えてしまって、自分でもおかしいと思う。
つい最近までは、全く興味も持たなかった相手だというのに…。
真面目に前を見ていると、嫌でも君の姿が目に入ってくる。
…体があつい。
馬鹿みたいだ、本当に。
……好きって感情はこんなにも、人を狂わせるものなんだ。
今まで真面目に授業を聞いていた僕は、一体どうやって結木の事を見ないようにして、板書をしていたのだろう…。
『ねぇねぇ、月島くん…』
ふと、僕を振り返った結木は、少し困ったような顔をしていた。
「…何」
『ごめんね、消しゴム貸してくれない…?忘れてきちゃったみたいで』
彼女はごめん、と手を顔の前で合わせる。
僕は少しだけため息をついてから、カッターナイフで消しゴムを半分にして、手渡した。
「それ、あげるから」
『えっ、いいの…?…ごめんね、今度新しいの贈るよ…!!』
ありがとう、と笑って結木は再び前を向き直った。
不格好に切り分けられた消しゴム。
その半分を、君が持ってる。
それだけで、良かった。
だけどそうやって、少しずつ近づいていくふたりの距離が、僕にはひどくもどかしいものに思えた。
どうすれば、結木と。
もっと仲良くなれるのかな…。