第5章 Sugar honey* ♥︎ 〜月島蛍〜
1時限目は、数学。
ぼーっと公式を眺めながら、数字を当てはめていく。
こんなもの、寝ながらでも解けそうだよ。
ふと壁にかかった時計を見上げると、ちょうど、前の席の結木の姿が見える。
肩より少し長い髪がさらさらと揺れて、甘い香りがしてくる気がする。
…なんて、変態かな。
結木は数学が苦手みたいで、いつも居眠りしてる。
…今回も例外ではなく。
さっきまでの威勢はどこにいったんだ。
かくかくと揺れる首は、見てるだけで爆睡なんだと物語っている。
幸い教師は見てないけど、これはあまりにも酷いんじゃないか…?
シャープペンで背中をつついてみても、起きる気配は無し。
どれだけ寝入ってるんだ…。
「…ちょっと、起きなよ…」
肩を揺すると、ようやく目を覚ましたのか、ふにゃふにゃと小さく寝言を言いながら、結木は僕を振り返った。
『つきしまくん…あぃあと…』
そのまま、眠気を引きずった笑顔を向けられて、不覚にもどきりと心臓が高鳴る。
まるで彼女の周りにだけ、ほわほわと暖かい空気が流れているみたいな…。
再び前を向いた彼女の髪からほのかにはちみつの匂いがした気がした。
…こんな、こんなじゃ、授業どころじゃない…。
もともと、数学なんて公式だけだし、得意だけれど。
……この気持ちに、公式なんて当てはまらない…。
どうしよう、こんなやつに。
「……ばかじゃないの…」