第5章 Sugar honey* ♥︎ 〜月島蛍〜
日差しも強くなってきて、次第に夏の匂いがする。
蝉時雨の中の通学は、それだけで一苦労だ。
首にかけただけのヘッドフォンはそれだけで暑いけれど。
部活が終わった放課後には、つけて帰れるだけの気温になってるからちょうどいい。
『あっ、月島くんら!』
間の抜けた声に後ろを振り返ると、棒付きの飴を舐めながらニコニコと笑う、クラスメイト。
結木 心の姿が。
「……その甘ったるいの、なんなの…」
彼女から放たれる、甘い甘い匂い。
そのあまりの甘さに僕は思わず顔をしかめた。
『見てわかるれしょ?
棒付ききゃんれーらよ!!』
全く要領を得ない返事に、ため息をつく。
「そうじゃなくてね…?
まぁ、いいよ。そんなの食べながら歩いてると
コケた時に喉に刺さるかもよ」
『えっ…!!』
慌てて飴を口から離して、僕をみる結木。
…いや、なんというかその。
「…なんで僕を見るの」
『だって月島くんが喉に刺さるっていうから』
これで大丈夫かな?
と、彼女は飴を咥えるのをやめて、ちろちろと舐めあげる。
あー…えっと、うん。
だいぶ安全にはなったんだけどね。
「……そうなんじゃないかな」
それは、凄くエロいから、あんまりしない方がいいと思う…とは、伝えてあげなかった。
『ふふ♪
ありがとね、ツッキー!』
「ちょ…その呼び方やめてよ」
振り返って言い返したけれど、彼女はにこにこと僕を見上げるだけ。
はぁ、とため息をついてから、ヘッドフォンをかけた。
何も流れていない、ただの世界との壁。
甘いはちみつの香り。
…僕、何してるんだろう。