第16章 揺れる髪先 ♥︎ 〜月島蛍〜
その日、僕はぼんやりとしたまま自宅に戻った。
いつ帰ったのかはあんまり覚えていない。
ただ、結木がまたね、と言ったその表情があまりにも儚く悲しそうだったことばかりが思い出されて、頭から離れていかない。
自室のベットに仰向けに横になって、ヘッドフォンをかける。
音楽は流していないけれど、それはどうでもよかった。
とにかく現実と考えることを切り離したいだけ。
ずっと前から、彼女のことが好きだった。
揺れるポニーテールも、透き通る声も、多少なりとも僕が学校に行くことへの楽しみになっていた。
だけど好きだと気付いた時には、既に彼女の隣には彼、夏希がいた。
僕の付け入る隙間だなんて、存在しなかった。
それが、どうしていま…あんな悲しそうな顔をしたのだろう。