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すうら、すうすう。

第8章 軍隊狸ーゴールデンカムイ、月島ー


「ま、でありますから、安心して呑みなされ。体の楽になる事請け合いですわ」

こちらを安心させる為か、先ずは自分で口をつけて見せる。が、ごくごくと旨そうに喉を鳴らす様子に呆れた。
こいつ、自分が呑みたいだけなのではないか。

「いやいや、アンタさんらはよく同じ釜の飯と言うが、同じ筒の酒も悪いモンじゃありませんぜ?試してみなされ」

「…アンタさんら?」

「おん?ははは。儂ら、であります。儂ら、儂ら。さ、呑んだ呑んだ」

調子良く言う玉木某に頬を抉りそうな勢いで再び竹筒を押し付けられ、渋々受け取る。これが知れたら懲罰ものだ。一体俺はこの大事の最中に何をしているのか。仕方なく印程度に口をつけると、芳ばしい匂いと甘い味が味蕾を開いた。
何となく腹立たしい事に、旨い。
甘口で涼やかな良い酒だ。搾りたてかと思う程癖のないさらさらした呑み口に、ついもうひと口分、筒を呷る。

「そうそう。たんと呑みなされ。呑んで食えばすぼの穴も塞がりますわいな」

玉木某がにこにこしながら、今度はワッパを引っ張り出す。

「すぼ?」

「あたた、またやった。どうも国の訛の抜けませんでなぁ。気付くと訛ってしまいますわ。いかんいかん。すぼとは、脹脛、ここンとこの事であります」

己の脹脛をトントンと突いて、玉木某はワッパを開いた。中には味噌が詰まっている。それを指先でちょいと掬ってぺろりと嘗め、うんうんと小刻みに頷いてこっちを見る。

「難儀な事でありましたな。すぼ…、あ、やや、脹脛に穴が空くなど以ての外。儂らが国にお仕え申す軍人殿に何たる仕儀、とんでもない露助どもであります。さて、…あー…。何と申されましたかな、アンタさん?」

「第七師団の月島…」

「月島!何と名前に月の有る!そりゃむちゃんこ良げな名前ですな!いや、恐れ入り申した」

矢鱈に感心しながら玉木某は雑嚢から鉄鍋を取り出し…雑嚢から鉄鍋?どうなっているのだ、こいつの雑嚢の中身は。

「いやいやいやいや、実に良き巡り合わせ。月島殿、アンタさんは験の良い御仁ですわいな」

「……」

何を言いたいのか、さっぱり判らない。そもそもこの歩兵が現れてからずっとよく判らない事ばかりだ。

「うん、験の良い。この合戦も間もなく勝ち戦で終わりましょう」

「合戦?」

「あ、いや、戦争。戦争でありますな。ははは。はぁ、気遣って話す事の煩わしい…」
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