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すうら、すうすう。

第8章 軍隊狸ーゴールデンカムイ、月島ー


凍み風の地雪を拐う夜半、一戸の居宅の一室に、眼力の尋常で無い男の幾足りも集って静かに語らっていた。
灰に埋まった炭の爆ぜるパキという音が、質素だが物の確かな調度のある小体な座敷に響いて四散する。

幾人かがぽつぽつ各々の去来を語る中、月島は黙々と火鉢の傍らで埋み火の世話をしていた。

敢えて語らって集った顔触れではない。睦まじく親しむ間柄でもない。
大日本帝国陸軍第七師団。帝国陸軍最強の呼び名高い別名北鎮部隊。

月島は自らの所属するこの第七師団が好きでも嫌いでもない。
月島には月島の理由があってこの場に連なっている。好悪の別は特に無い。何処に居てもそうであったように、注意深く耳を側立てて目を巡らし、状況に気を配りながら、よく言えば冷静、悪く言えばまるで人事の様な事も無さで、ただ黙って居る。与えられた勤めを果たし、その都度すべき事と思う事をする。
不条理に慣れるのが職務と心得て受け容れるのが余人より多少早いせいで、何かと極端な人材の多い第七師団に於ける世話役の如き立場にあるのは些か辟易するが仕様事無い。簡明直截に言えば真っ平御免被りたい事でも、勤めとあれば否応無いのが当然だ。

「月島軍曹」

不意に呼ばわれて、月島は顔を上げた。見れば鶴見中尉がこちらへにこやかな顔を向けている。
丁度団内でも屈指の狙撃手が己が出自を語り終えたばかり、座敷はしんとして考え耽る同朋達の物思いに沈んでいる。月島は内心眉を顰めた。接ぎ穂を求められるのだろうと推測して煩わしくなる。

俺には語る事などないが。

軍人になる前もなってからも、ただ勤勉実直に生きて来た。他にやり様を知らぬからそれ以外仕様がなくここ迄やって来た。何の面白みのある逸話のあろう筈も無い。自分は真面目だけが取り柄なのだから。

「君は戦地で隊から逸れた事があったな」

椅子の背に身を預けた鶴見が、寛いだ様子で膝の上で手を組んだ。
月島は真顔で鶴見を見返す。

「ほら、私にとっても非常に思い出深いあの奉天会戦の時の話だ。激戦の十八日間の内一夜、君は山を流離った後無事連隊に合流し、終戦まで果敢に戦い抜いた」

「恐れ入ります」

淡々と目を伏せた月島に鶴見は立ち上がって歩み寄った。ぎゅうぎゅうと座り込んだ師団兵らが身を引いて道を開ける。その隙を縫って火鉢の側に辿り着いた鶴見が屈み込み、顔色を変えない月島を覗き込んだ。
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