第10章 オバケなんてねえよ。居たら困んだよ。ー銀魂、真選組ー
「ひんやり素敵スウィーツだよ〜。知らねぇのか、トシ。この冬のネオアームストロングサイクロンジェットアーム ストロング人気」
「マブでスゲー人気ですぜ、ネオアームストロングサイクロンジェットアーム。ネオアームストロングサイクロンジェットアーム モア ストロング改は春を先取りしたお洒落スウィーツなんでさァ」
「なあ。今この店、春のネオアームストロングサイクロンジェットアームフェアやってるじゃねえか。勉強不足だぞぉ、トシ」
「デザートは店長代理担当だ。ヤツに聞けよ。おれにゃあ何が何だかさっぱりわからねぇ。何屋だ、ここは」
言いながら盆の窪を撫で擦って、撫で擦ってからどうやら寒くてそこに手が行ったらしい事に気付いた。
口を引き結んで目を動かした。スタッフオンリーの厨房から、気付いてみればあまりにも明らかな冷気が忍び寄って来ている。
「何か寒ィな。経費節約で暖房切っちまったのか?全国チェーンだってのに苦労だな。資金繰りで苦しいのは何処も同じかァ」
暑い寒い痛い苦しいに辛抱強すぎて、あっさり言えば鈍い近藤まで首を擦りながらあちこち見回している。
「出掛けに屯所のブレーカー落としてボックスに鍵までかけてやしたもんねェ、近藤さん。でんこちゃんに褒められやすぜ」
沖田が無頓着に言う。コイツは鈍いと言うより怖いもの知らずだから、平気な顔をしているのを見ても全然安心出来ない。
コキと首を鳴らして煙草を深くひと吸いするも、思ったように息がつけない。
…帰りたい…。
「でんこちゃんに褒められても隊員に夜逃げされるぞ、それじゃ。ブレーカー落としたらおちおち便所にも行けねえじゃねえか」
「帰ったら戻すさ、勿論」
「ひでぇ局長だな、おい」
平静を装った視界の隅を掠めるものがある。
厨房近く、ドリンクバーにある紙ナプキンが、時折すぅすぅ揺れ動いている。不規則に、すぅすぅ。
……ぜってェ戻んねぇぞ。
厨房と事務所。
何なら万屋には人身御供になって貰う。
……ぜってェ帰さねぇ…。
近藤さんも沖田のバカも、夜明けまで離さない。駄目。無理。居て貰う。
だってもう不吉な空気しか感じられない。
すぅすぅする。
ふと違和感を感じて、何を思う間もなく近藤の肩口に目が行く。
瞳孔がおっ開いた。
「ィ…、ぎゃーーッ!!!!いぃィィぃやあぁァ!!!!!」