第9章 その小さなモノに名前はない ー妖怪ウォッチー
「おわっ」
ズルッと足をとられて、ケイゾウはあわてて持ちこたえた。危なく転ぶところだった。
いかんいかん、ガッツ仮面たるもの、水たまりに足をとられたくらいでカッコ悪く転んでいては示しがつかん。
フユニャンがにやにやしているのに気づいて、わざとらしく服をはらう。咳払いしながらケイゾウは、浅い小さな水たまりをのぞきこんだ。
「あー、踏んづけちまって悪かったな、えー、水たまり、クン」
「おいおい、クンはないぜ。その水たまりが女の子だったらどうするんだ?失礼だろ」
フユニャンに言われてケイゾウは首をひねった。
「水たまりに男も女もないだろ」
「可愛い妖怪がひそんでるかも知れないだろ。色白でビー玉みたいなキレイな目をした、小さな、....今すぐにも消えちまいそうな、そんなのがさ」
「ふうん」
ケイゾウは不思議そうにフユニャンを見た。
フユニャンはちょっと決まり悪そうに、腕を組んで下を向いている。
「いいから!もしそうだったらどう呼ぶんだ!」
「変なヤツだな。怒るなよ」
ムッとしながら考えることしばし。
風が吹いて、水と草いきれが匂う。あぜ草がサワサワと身をゆらす。水たまりはもう波をきざむほどの水を抱えてはいない。寄り添っていた日差しがようしゃなく水たまりを干していく。
「水玉、ミズタマでどうだ!ビー玉と水たまりのミズタマ、どうだ、ばっちりだろ?」
得意そうにケイゾウが元気よく言いはなった。
「水たまりとビー玉で水玉、ミズタマ」
オトは空気を震わせて、水たまりに吸い込まれて行った。
草いきれ
青い空
あたたかな土の道
小さなひかり
ケーゾー
ミズタマ、
ミズタマ...。
「おい、フユニャン、行くぞ」
「あ、ああ」
「何だかフユニャンおかしいぞ、水たまりが男
とか女とか」
「ん?ああ...」
フユニャンは、振り向いて少し悲しそうな顔を
して、またケイゾウの後を歩き出した。
ミズタマはもう、ソコにはいなかった。