第6章 温かいご飯
ーー無意識だった。長い奴隷生活の中で、喜びなどの感情が麻痺してしまっていた。笑えるような楽しいこともなければ、笑顔になって喜べる嬉しいこともない。ただ、玩具として人に人として扱われない日々。
「……ずっと……笑えることがありませんでしたから……。それに……笑ったら、何をされるか……」
「……」
キッドさんは黙ってわたしを見ている。ーー彼はどう思っているのだろう? もしかして、この人もあの人たちと同じように、笑ったことを怒るのだろうか……。今まで優しかったのは嘘で、いきなり叩いてくるのだろうか……。
「それじゃァ、今は……どうだ?」
「……え?」
わたしは突然聞かれたことに、目を丸くして首を傾げた。
「おれたちといるのは……お前にとって、嬉しいことか?」
キッドさんは見た目の派手さと体の大きさに似合わず、少し怯えたような目で聞く。
(そんなこと……)
ー今まで、奴隷だったわたしにそんなことを聞いてくれた人はいなかった。わたしを気遣ってくれる人なんて……。
「わたしは……」
自然とまた笑顔になって、わたしは彼へと素直な気持ちを紡ぐ。
「今……皆さんに出会えて、ここにいられることが……人生で1番嬉しいことです」