第6章 温かいご飯
「……」
キッドさんがまた黙って、わたしの方へと手を伸ばす。
「……」
頭を叩かれた手。頬を叩かれた手。首を絞められた手。嫌なことをされた手。今まで、たくさんの手を見てきた。だけど、この人は……。
「……」
黙ったまま、わたしの頭の上に手を乗せる。そして、ゆっくりと髪の毛を撫でるように触る。
「……」
知らず知らずのうちに、体が強張る。嫌なことを思い出しそうになって目を瞑る。瞼の裏には今まで自分を飼っていた主人が思い浮かぶ。
「目を閉じるな」
前から穏やかな低い声がする。
「今、触ってんのはおれだ。何もしねェ。安心しろ」
「……」
おずおずと目を開ける。目の前には真紅の髪の毛の男の人。今までの主人とは違う。
「……嫌じゃ……ねェか」
「……はい」
まだ少しだけ怖いが、嫌ではなかった。怖くて厳つい顔とは裏腹に、彼の手は少し怯えているように感じた。気にかけてくれているように感じた。
「……キッドさんは……優しい人ですね」
「……そうか?」
口紅が塗ってある唇が弧を描いて笑う。
「おれは海軍から、民間人を巻き込む危険人物として指名手配されてるんだぞ? 優しいなんて……」
「そんな言葉は似合わない、ですか?」
「……」