第5章 自分の名前
ーー殴られるかもしれない。そう思いながらも、素直に従うことにした。
「……」
「お前」
隣にいる男の人から声を掛けられた。
「……はい」
「名前は?」
「……え……」
ー名前……?
その言葉に驚き、隣の男の人の顔を見た。
「……」
ー名前……。
顔を下に向け、膝の上に置いた手を見つめた。
「おい」
ビクッ
低い声に体が反応する。体が震えないように、膝の上の手を握り締める。
「おい、キッド」
少し遠くから、その様子を見ていたのであろう金髪の男の人が声を掛けた。
「……」
赤髪の男の人は黙ってしまった。
それを見て、金髪の男性がわたしの方へ近付いて来る。
「お前、もしかして……」
片膝をついてしゃがみ、俯いたわたしと目を合わせようとする。
「……」
「名前が……ないのか?」
「……」
こくりと頷いた。それと同時に、周りの人達が目を見開いたり、口を大きく開けたりした。
「……今まで、ずっとなかったのか?」
「……そうではないです」
少しでも男の人の顔を見ようと顔を上げる。
「今までの名前は……ご主人様だった人達からいただいた名前でした。でも……」
ーそれが凄く嫌だった。