第33章 【甘】そのままの君でいて/爆豪勝己
「お前の兄ちゃん無個性なんだってな!」
子供の時からかけられ続けた言葉。
私の兄である緑谷出久には個性がない。今時無個性なんてそれはそれは珍しく、何かとお兄ちゃんの件でおちょくられていた。妹である私は父の個性を引き継ぎ口から火炎放射器みたいに火を吹ける。そんな派手な私の個性はヒーローを目指す素行の悪い生徒から嫉妬の念も込め、からかわれていた。それは多分幼馴染みである勝己君がお兄ちゃんをデクと蔑称で呼び虐めている事と深く関係している。
私がからかわれる原因となったお兄ちゃんだが、お兄ちゃんの事は嫌いになれなかった。寧ろ好きだ。誰にでも優しく、困っている人がいると誰よりも先にその人の元へと駆け出すお兄ちゃんは私の自慢だ。
そして、幼馴染みで大好きなお兄ちゃんを虐めている張本人である勝己君の事も嫌いになれなかった。お兄ちゃんに対しては手厳しい勝己君だが、私に対しては多分優しい方だと思う。
だからと言って、お兄ちゃんの事を無個性だと言って私をからかってくる同級生に腹が立たない訳ではない。大好きなお兄ちゃんを馬鹿にされれば腹だって立つ。でも、お兄ちゃんが無個性な事は事実であって、言い返す言葉も見つからない。無個性でもお兄ちゃんは優しいもん!なんて言った所で無意味。笑いを誘うだけだ。優しさが何になると笑われるだけ。だから私はその言葉を黙って聞くことしか出来なかった。